メニュー

肩こり

「肩がこる」の不思議

働き盛りのビジネスマンやOLさんなど、ストレス世代の皆さんはひどい肩こりに日々悩まされている方も多いことでしょう。美容室などで首や肩のマッサージを短時間受けただけでも何とも言えない心地良さを感じるほど、私たち日本人には身近な存在である「肩こり」ですが、実は外国から見るとこの「こる(凝る)」といった概念はとても不思議な存在のようです。そもそも「肩こり」は病名ではないため、診断基準も存在しません。欧米諸国ではneck painやshoulder painと表現されるに留まっており、人種間における体格や体質の違い、文化的背景、国民性などが肩こりの発症には大きく関与していると言われています。

「肩こり」はどんな症状?

首・肩・背部の上方にかけて筋肉が緊張し、

●不快感
●違和感
●鈍痛
●慢性痛

などを感じる一連の症状を指します。

日本では女性が悩む症状の第1位(12.5%)、男性では第2位(6% ちなみに1位は腰痛)にランクインするほど非常に多くの方が肩こりに苦しまれている現実があります。(平成25年 国民生活基礎調査)。

では、肩こりを病として捉えるボーダーラインをどのように考えるかと言う話になりますが、眠りを妨げるような肩こりの場合は、受診いただき治療すべきレベルだと私は考えます。また、吐き気・頭痛・食欲低下を伴うような症状がある場合は一度診察にお越しいただき、ご相談いただければと思います。仕事や勉強などにおいても作業効率が大幅に落ちるような状態であれば受診の必要性があると考えます。肩の筋肉が凝ることで頭の筋肉までも引っ張られるようになると、緊張性頭痛なども引き起こされる可能性があります。「肩こりの後に頭痛が来る」という症状は実際の診療現場でも頻繁にみられるものです。

頭痛が重症化することでストレス性の胃炎を引き起こす場合もあります。吐き気を伴う緊張性頭痛の場合は診察室にお越しいただければと思います。

どうして起きるの?

肩こりは、いくつかの原因が重なって生じるケースが多いです。

肩甲骨の内側は菱形筋などの筋肉があるだけで、骨と骨との間の関節が認められません。つまり肩甲骨は皮下に「浮いている」状態なのです。ただでさえ重力や姿勢の悪さなどにより左右されやすい状況に加え、さらには肩周囲の筋肉群は頭や両腕など約15㎏もの重さを支えなければなりません。それに対して筋力不足があれば、肩こりが生じるのも無理はない話です。統計上、女性に肩こりが多い理由も男性に比べて筋力が少ないことが原因のひとつに挙げられています。また良くない姿勢のままパソコン・タブレット・スマートフォンを長時間使用すれば、肩首周辺の筋肉群にさらなる負担を強いることは言うまでもありません。現代病としての肩こりは今後増えることはあっても、減ることはないでしょう。

一方で疲労感や緊張を感じやすいなど交感神経系の亢進が強い場合には、体内に乳酸が蓄積され、痛みを引き起こす原因になるとも考えられています。また、筋肉の過緊張が持続することで局所に血流不全が起き、痛みが引き起こされる(阻血性疼痛)という研究論文もあります。当院でも肩こりに悩む患者さんの多くは圧倒的に働き盛りの世代の方々が多く、やはり過緊張や交感神経などの影響が大きく関与していることがわかります。

さらには日本人3,187名の統計学的な分析(2016年・藤井)によっても、重度の肩こりの発症と関連性が強い項目(専門用語で「有意差あり」と評価されたもの)として以下のものが挙げられています。

●女性であること
●睡眠時間が5時間未満
●仕事上の悩みで憂鬱な経験がある

他に、

●職場での低サポート(上司や同僚からのサポートが少ないこと)
●運動習慣がないこと
●抑うつ(鬱々とした気持ち)があること

すなわち、肩こりは身体的なトラブルである一方、実は精神的な問題も大きな要因であることがわかります。胃腸の弱さや、心が抱えるトラブルをケアすることも実際の診療現場においては非常に重要なことです。細やかな問診を行うことはもちろん、東洋医学の観点から脈や舌の状態なども含めて体全体を総合的に判断し、治療の方針を見つけ出すことが重要と考えます。

どんな種類があるの?

●原因不明の一次性肩こり(本態性肩こり)
●疾患が背景にある二次性肩こり(症候性肩こり)

の二種類に分類されます。二次性肩こりには、

●更年期障害
●顎関節症
●整形外科疾患(頸椎・肩関節など)
●循環器疾患
●呼吸器疾患
●VDT症候群(Visual Display Terminal syndrome):パソコン業務に伴うテクノストレス

などが含まれます。

どんな病気が考えられるの?

身体的なトラブルは、二次性肩こりで列挙した病が主なものです。その一方で、肩こりは心理的なストレスとの関係性が指摘される論文もあるように、精神的な訴えを身体で表現している場合があります(専門用語で「身体化(somatization)」と言います)。

局所の痛み、疲労感が同時に存在するという点で、

●慢性腰痛
●過敏性腸症候群(下痢・便秘など)
●緊張型頭痛
●線維筋痛症
●慢性疲労症候群

などにも肩こりは共通してみられるものです。当院でも緊張型頭痛や慢性疲労症候群と肩こりを合併して受診される患者さんは数多くいらっしゃいます。

どういう治療をするの?

症状や状況に応じてさまざまなアプローチを行います。

西洋薬

鎮痛剤内服:ロキソプロフェンなどNSAIDs
ビタミン剤内服:ビタミンB1・B6・B12
肩こり部位の血流改善や神経回復に有用です。しかしながら、これらの対症療法のみでは効果が一時的であることがほとんどです。西洋薬は即効性がありますが、効果が切れるのも早いという特徴を持ちます。その効果のアップダウンが鬱々とした精神的な問題にも繋がり、結果的に倦怠感など悪循環を引き起こすケースもあります。

理学療法

局所の筋肉の緊張をほぐすストレッチング、体操などの運動療法、マッサージなどの徒手療法も用いられますが、やはり効果は一時的なものです。肩こりが身体的トラブルのみならず、ライフスタイルに直結する個人的な性格を含めた精神的要素が大きく関与しているためです。

その一方で肩こりの患者さんに、漢方薬・針灸がそれぞれ著効するケースは多くみられるものです。

漢方・針灸

肩こりに効く漢方薬には葛根湯(カッコントウ)が有名です。私も実際、葛根湯が効くとおっしゃる患者さんにはよく出会います。麻黄には実は鎮痛の作用があります。加えて葛根湯に含まれる桂皮(シナモン)には精神的な不安感を取り除く効果があります。しかし漢方の専門医という立場としては安易に葛根湯を服用されることはおすすめできません。高血圧、胃潰瘍の副作用を誘発しうる麻黄(マオウ)という生薬を含んでいるためです。またストレスが過剰な方は交感神経という自律神経系が過緊張であることが多く、葛根湯の麻黄はむしろ状況を悪化させる可能性があります。

葛根湯のほかにも、頭痛の合併例などに柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、呉茱萸湯(ゴシュユトウ)が有効な場合もあります。煎じ薬(自由診療)でなければ処方できない治肩背拘急方(ちけんぱいこうきゅうほう)などの漢方薬も高い効果が認められています。漢方薬の処方には知識豊富な専門医を受診されることをおすすめします。

肩こりの根本治療のためには身体的・精神的なリラックスが一番

東洋医学では人間の身体を構成する要素として、「気」「血」「水」という3つの軸をもとに治療法を考えます。中でも「気」は東洋医学ならではの発想ですが、人間の全身をグルグルと巡る「エネルギー」を意味します。その循環が滞った状態を「気滞」と呼びます。この場合、治肩背拘急方(チケンパイコウキュウホウ)や半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、柴胡剤(サイコザイ)といった処方が用いられます。

また、肩こりの女性に多くみられるトラブルは、「オ血(オケツ)」という東洋医学の「血(ケツ)」の滞りが関与していることが多いです。その場合には桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)という漢方薬などを主に処方します。肩こりのみならず、女性特有の生理不順などホルモン系の悩ましい症状もともに改善されることがよくあります。

肩こりの根本的治療を―

現代の最先端医療を得意とする西洋医学には肩こりに効く薬くらい様々様々あってもおかしくないと皆さんは思っていることでしょう。しかし西洋薬には肩こりに対して有効な薬はいまだほとんどなく、ビタミン剤や筋肉の血流改善を促す循環剤といったごくごく限られた薬しか処方できないのが現状です。つまり西洋医学においては肩こりはあまり相手にされていない症状と言えます。

日本人においては「肩こり」を訴える患者さんは頭痛や生理痛や胃痛などをおさえて1位2位を争うような症状のはずなのに、意外と効く薬がないと患者さん自身も感じられて、皆さんがあきらめかけている症状と言うこともわかります。マッサージや岩盤浴、温泉などを適宜利用してご自身で肩こりを癒したり、中には市販薬の痛み止めを飲んでしのぐ患者さんも珍しくありません。日々の診療現場においても、アンメットメディカルニーズ(医療の需要はあるのに、それになかなか適合する薬がないこと)と呼ばれる、まだ光の当たらない医療領域の代表には肩こりがあると私自身感じています。

当院の診療・治療方針

治肩背拘急方(チケンパイコウキュウホウ)は、精神的ストレス反応を緩和すべき場合には即効性があります。ただし、うつ病や不安神経症など精神症状の訴えが強くみられる場合、肩こりの治療と併せて精神科の受診を検討した方が良いこともあります。その判断も含めて丁寧に診察・検討いたします。ほかに自由診療(生薬、煎じ漢方)になりますが、独活葛根湯(ドッカツカッコントウ)、延年半夏湯(エンネンハンゲトウ)なども肩こりの治療には有効です。

針灸治療も肩こりに対しては非常に高い効果があります。一般的に肩こりや腰痛の治療に針灸のイメージは強いと思いますが、即効性を感じられている患者さんは実際非常に多く、高い治療効果が認められます。鍼灸院がこのハイテクな時代においても根強く支持されている理由は、肩こりに対するニーズや満足にしっかりと応える結果を出しているからでしょう。

当院の針灸においても、肩こりが生じているその筋肉および筋膜に直接的にアプローチする方法のみならず、血流改善による凝りの解消、自立神経を介した過緊張の緩和など全身を基本とする施術を行っています。生活指導の相談も受け付けています。繰り返す肩こりの場合は、座り方・立ち方などの姿勢の悪さによって生じている凝りがあります。日常生活の中で取り組める改善策についても患者さんとともに考えます。

人間はどこかにひずみやゆがみが生じやすいデリケートな生き物です。ひどい肩こりの症状になると呼吸が上手くできなくなる場合もあります。どこにゆがみやひずみがあるのか全身を整えるためのツボを把握することも大切です。どこが凝りやすいのか、なぜ今その凝りが生じているのかといった原因究明も必須です。自分の身体の仕組みや癖をご自身がまず正しく知るためにも、針灸はとても有益なものです。局所的な治療のみで満足いく結果が得られなかった方もぜひ当院の全身治療をお試しいただければと思います。

また、胃腸の弱い方に多い「前かがみになりがちな姿勢」においても、胃腸を整えることで自然と姿勢の改善がみられることも多くあります。問診だけでなく、脈や舌などから得られる情報も併せて丁寧に診察しながら根本的治療を目指すことが重要と当院は考えています。

その他

冒頭にも述べたとおり、アメリカで「肩こり」を説明することは困難と言われています(土井健郎『甘えの構造』の中にも、肩こりを英訳することが困難である旨の記載があります)。欧米を中心に発達してきた西洋医学では、そもそも「肩こり」はこのようになじみが薄い症状なのです。「痛い」「しびれる」といった表現や「stiffness」(固形に近い固さ)という言葉を使用することはありますが、日本人ならではのいわゆる「凝る」「緩む」といった表現ではないようです。他の症状、他の病気でも人種間での発現頻度の異なりはみられるものですが、肩こりについては特に東洋医学が歴史的にみても圧倒的な強みを持っている症状と考えます。

長く肩こりに悩まされている患者さんには、ぜひ一度、当院の漢方や針灸を選択肢のひとつとしてお考えいただければと思います。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME