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小児漢方(院長インタビュー)

ライター神出優子

はじめに

 成熟した大人とは違い、子どもたちは「成長」と「発達」という膨大なエネルギーを要する発展途上の過程で生きています。 小児は決して小さな大人ではありません。各臓器や神経系、性成長なども年齢によって著しい変化がみられ、病気や処方も大人のそれとは大きく異なる特徴があります。 漢方薬は比較的安全だと一般的に思われがちですが、身体を温める薬や潤す薬や下す薬など一部例外はあるものの、小児に関しては処方しにくい側面もあります。だからこそ、小児漢方は東洋医学の知識に長けた専門医の指導の下、正しい治療・処方を選択する必要があります。

小児漢方における当院の4つの信条

東洋医学的視点で見る小児は「太陽」

大人と子どもでは体質に大きな違いがあります。 東洋医学では小児は太陽の症状(陽証)と捉えます。例えば冷え性の子どもより暑がりの子どもが多く、じっとすることよりも走り回ることを好むアクティブさがあります。一般に高齢者向けに処方されるような身体を温め熱を補う漢方は小児に使用すると逆に副作用が出やすい状態になるため注意が必要です。

エネルギーを必要とする小児期だから、正しい知識での薬選びを―

一方で成長の途中段階である小児だからこそ、エネルギーを補う必要がある場合があります。ときにエネルギーを加え、下から支え助けるような薬を処方するタイミングと時期があります。例えばノロウイルスなど吐き下しの激しい急性の病気や、夜尿症、喘息のような呼吸機能が落ちているとき、風邪を引きやすい虚弱時などに効果を与えやすい薬があります。エネルギーを必要とする小児に、力を外に分散するような薬を与えることは逆に不向きなケースがあります。例えば防風通聖散(ボウフウツウショウサン)のようなメタボリック症候群や糖尿病の大人に対して処方される薬などは小児にはタブーのことが多いのです。

小児ならではの「水」の重要性

小児は成長のために水を多く要します。人の成長には1kcalに対し1ccの水が必要なのです。また、大きな成長を遂げる際のカロリーを消耗するときには、必ず水が並行して動いています。 生まれたての赤ちゃんは8割が水です。例えば3kgで生まれた赤ちゃんであれば骨や皮膚や臓器などの総重量は約600gほどです。残り2.4㎏は、実は背中に水の入ったランドセルを背負って生まれてきているようなものなのです。3か月に二倍ほど体重が増えるような赤ちゃんはかなりの水を要し、満ち足りている肌はみずみずしいものです。

また身長がグンと伸びる第二次成徴期と呼ばれる思春期にも、水のトラブルが現れやすいものです。東洋医学では「水毒」と呼びますが、この時期、むくみや頭痛が起きやすくなったり、汗のトラブルが起きやすくなったりするのはそれゆえです。新たな成長のためのエネルギーを必要としないご高齢の患者さんに処方するような生薬の地黄(ジオウ)は、小児に使用すると副作用が出やすいため要注意です。

余談ですが、生理前の女性もむくみやすくなりますね。それは水を身体が貯め込もうとしているからです。赤ちゃんを受け入れる準備が整うとき、赤ちゃんに水を供給するためエストロゲンという水を貯め込む指令を出すホルモンが分泌されます。また男女かかわらず、ストレスを抱えるとむくみやすくなります。体はストレスを抱えると水を貯め込み飢餓を回避しようとする原始的な反応があるからです。

症状をうまく表現できない小児だから、丁寧に気持ちを汲み取る診療を

小児は精神的なものが大きく影響しています。痛いという表現も大げさに言ってみたり、幼い子ほど言語の習得が未熟なので、今感じている症状をどう表現したらいいかわからないという現実があります。特におねしょも爪噛みもそうですが、2歳未満では「お腹が痛い」という言葉で全ての不満を表すことがあります。「痛い」「痛い」といいながら欲しいオモチャがない不満を伝えたり、お腹がすいたという気持ちを伝えたりします。言葉でうまく表現しきれない小さな子供たちだからこそ、訴えは身体に現れます。

思春期においても、自分の漠然とした不安感や不満を自分自身で消化しきれない未熟さゆえ、体全身に不安症状が現れます。小児期は心身一体に起きる症状が主です。だからこそ、丁寧に子どもたちの心のうちに耳を傾け、思いを汲み取ることを当院では大切に心がけています。

どんな種類があるの?

小児科領域で現在、漢方が有効だと言われているものは神経系・免疫系・内分泌系の薬が主です。

● 神経系 → 自律神経がからむ起立性調節障害・夜尿症・チック・夜驚症・心身症など。
受験勉強などをきっかけに、チック、イライラ、不眠などのトラブルが生じた子どもは多くいます。西洋医学で対処しにくいこれらの症状も東洋医学は得意とします。

● 免疫系 → 反復性中耳炎・反復性扁桃腺炎・リウマチを含めた自己免疫疾患・アトピー性皮膚炎・気管支喘息を代表とするアレルギー疾患・腎臓の病気など

● 内分泌系 → 虚弱体質・食欲不振・原因不明の成長障害・小児肥満 これらは西洋医学ではなかなか対処が難しい領域の病気です。

西洋薬で不安をとる薬としてSSRIという薬があります。以前は小児にも処方できましたが、今は自殺する子どもたちが一定の確率で増える副作用が認められたため、厚生省からの指示で使用不可となりました。 小児というだけで治療の選択肢が減ってしまうことも事実です。西洋医学だけで対処しようとすると逆に手持ちの武器が少なくなる現実もあります。そういった意味でも東洋医学が小児医療で果たすべき役割はとても大きいのです。

服用期間の目安はどれくらい?

お子さんの状態にもよりますが、半年から1年といった期間を要するものもあります。保険内診療で処方することも可能です。保険内診療が不向きな場合や治療の確実性を高めるために、煎じ薬(煎じ薬)の用意もありますのでお気軽にご相談いただければと思います。

子どもが飲みやすい漢方薬はありますか?

「良薬は口に苦し」という言葉があるように、漢方薬も味や香りなどクセが強いイメージがありますよね。親御さんにとっては実際問題、お子さんが漢方薬を飲んでくれるかどうかという不安をお持ちでしょう。小児漢方で多く処方される小建中湯(ショウケンチュウトウ)や甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)などは非常に甘い薬で、子どもにとってはとても飲みやすい薬です。

煎じ薬を処方する場合にも、そこにハチミツを加えるなどちょっとした工夫を加えることで小さなお子さんも不安なく飲める薬になります。他にもいろいろと手法はありますので、お気軽にご相談いただきお試しください。 いろいろなパターンを細かく試せることも漢方が子ども向きの薬である所以です。心身全体を整えるという考え方としても、漢方が持つ可能性はとても広いものだと感じています。

昨今の小児科を取り巻く環境変化の中で―

小児科医の中でも漢方を処方する先生が少しずつ増え始めていることを実感します。「小児漢方」という言葉はまだなじみもなく、ピンと来る方は少ないと思います。しかし、西洋薬の抗生剤を使用し続けることがアトピー性皮膚炎の発症に繋がりやすいなど、最近は西洋医学の課題も表面化してきています。研究データによると、通常分娩の子供がアトピーになる頻度と帝王切開のそれと比べると、帝王切開で生まれた子のアトピー発症率は圧倒的に多いとされています。不思議なことですが、クリーンな環境で生まれた子どもほどその後のアレルギーを引き起こしやすいと言われています。生まれてくる際産道の菌をもらい吸い込んで生まれてくる子どもと、完全に滅菌された環境下で生まれる子どもとでは腸内環境や免疫が全く異なるとも言われています。それが病気の発症とかなり深い部分で関わっていることまで、ここ数年の研究でわかってきました。 お腹の中の菌や免疫を立て直すという根本的な視点は西洋医学には乏しいものです。漢方の利点と価値を今一度、親子で一緒に感じていただけたらと思います。

私が東洋医学の限りない可能性を感じた原点はここにある―

小児を診察する中で、いくら検査をしてもなにも異常は見つからず、結果「心身症」という大まかな診断に至らざるを得ない経験をしてきました。西洋薬では何も処方ができない現場の辛さもありました。 実際の診療において圧倒的なシェアを占める西洋医学は、原因がシンプルでなければそれ以上の追求は困難となります。しかし親御さんの心中は察するに余りあり、お子さん自身はその顔色や様子を心細く伺います。西洋医学的な発想だけでは実際の治療現場ではうまく立ち行かないことがあることを痛感しました。

そんな中で東洋医学的な発想を加えて診療することに辿り着きました。漢方の世界を詳しく探求し治療に用いることで劇的な改善に向かう症例を多く目の当たりにしてきました。医師としてそこに新しい道と価値を見つけ、今まで以上にひろがっていく無限の可能性を持つ東洋医学の世界にのめり込み、漢方医学の叡智を極められる北里大学東洋医学総合研究所にまで身を置いた次第です。

私が東洋医学に目覚めた原点はまさに小児ならではの“言葉にできない訴え”にありました。小児科は古くは唖科(あか)と呼ばれ、「言葉にできない科」「言葉をしゃべれない科」という意味で用いられてきました。小児科そのものが言葉にできない患者さんたちの訴えを聞く場です。小さな患者さんたちに対して俯瞰して物事を診て、病に対する武器や戦略を西洋医学のみならず東洋医学も揃えていくことで前よりも自信を持って診療に当たれるようになりました。また、患者さんとの間により深い人間関係の構築も可能になりました。

心身症は特に西洋医学が苦手とする分野ですから、そこも含めた漢方の対応力の高さというのは治療においてとても魅力を感じるものです。 西洋医学は「気」という目に見えないエネルギーや精神的な側面、数値で評価できないものを取り扱うことを非常に不得手とします。一方、それを得意とする東洋医学は非常に深みのある独特の世界観を背景に持っています。

歴史的な話になりますが、西洋医学が小児科で果たした役割は非常に大きなものです。例えばペニシリンなどの抗生剤がなければ、髄膜炎、敗血症で亡くなる子供たちはいまだに多かったと思いますし、白血病やインフルエンザなど小児科領域の救急医療においても西洋医学を必要とする領域は当然あります。ただし、ペニシリンなど抗生剤そのものの歴史もまだ80年足らずの浅いものであり、その80年の間に起きた大変化といえばやはり複雑なアレルギーの出現です。100年前にはアレルギーという用語すらありませんでしたから、新しい病が今起き始めているのです。もちろん抗生剤は適切に使用すればなんら問題ないものです。しかし薬をむやみに使いすぎた弊害として新しい病気が生じる可能性があるのです。

腸内細菌や免疫力、それにともなうホルモン系の乱れ、自律神経系の乱れなど複雑に入りくんだ病に対しても、西洋医学はそれを苦手とします。生活の効率の良さなど多忙を極める現代では、睡眠時間の減少など大人のみならず小児にも弊害が起こり始めています。 漢方は飲むことで中(腹)を建て直すという手法があります。小児科で処方される代表的な薬に、その名も建中湯(ケンチュウトウ)という処方群があります。消化を助け、腸内環境を整えるという治療法が約2千年も前から脈々と受け継がれてきたという真実―― その価値と重要性をぜひこちらのクリニックで体感していただければと思います。

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