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「疲れ」と「だるさ」 

はじめに

「疲労感」や「だるさ」は疾患名ではなく症状です。
「体がだるい」「体を動かすのが億劫」「ただただ横になっていたい」…患者さんからそんなお悩みの声をいただきます。「だるい」「疲れた」という言葉は日常的に私たちがよく使用する言葉ですが、お互いに伝えようとしている言葉の意味合いが実際にはずいぶん異なっていることが診療現場に多くあります

例えば眠気を患者さんが「だるい」と表現するケースもあり、それは疲労感を取り去る治療よりもむしろ睡眠障害として向き合った方が良い場合があります。患者さん一人ひとりの主観的な感じ方が根底にあるため、明確な判断が難しい症状のひとつです。

さらに「疲れ」や「だるさ」はその特異性から内科や心療内科、精神科などを複数受診されても、患者さん側にとってなかなか満足が得られにくい事情があります。患者さんの主観にゆだねる部分が多い症状のため、明確な数値化・科学化がしにくく認識がすれ違い、ときに他の病態が混じることがあるからです。

どんな種類があるの?

大きく3つに分けられます。
 ● 身体的なトラブル
 ● 精神的なトラブル
 ● 心身ともに混ざった複合的パターン

実際の割合としては精神的なトラブルが圧倒的に多いです。 具体的な診断名がつけにくい場合があります。 もうひとつ大切な観点として捉えるべきは 、

 ● エイジングの要素
老化現象といった視野も含めて考えると疲労感やだるさの理解が深まります。

どんな病気が考えられるの?

 ● 身体的なトラブル
 頻度は少ないが、糖尿病・甲状腺疾患・急性肝炎・敗血症・不整脈などの心臓疾患・貧血・薬剤性の副作用など

 ● 精神的なトラブル
 うつ病などの精神疾患

 ● 心身ともに混ざった複合的パターン
 生活全般が不規則な人・睡眠時間の慢性的な不足・食事内容の偏り・アルコールの過剰摂取などによる影響

 ● エイジングの要素
 更年期障害など

他に頻度としては少ないですが、慢性疲労症候群というものがあります。
慢性疲労症候群とは 6か月以上続く強い倦怠感・微熱・のどの痛み・日常生活の困難・頭痛・風邪を引きやすいなどの症状を特徴とする症候群です。 脳血流PET検査を行い、機能的な数値を診て判断する場合もあります(物質が取り込まれる際の脳内の血液の流れ方を調べるもので、脳の働きがリアルタイムでわかる検査です)。最新の研究によれば、慢性疲労症候群は頭部の神経に炎症が存在する可能性が高いとされています。

さまざまな研究が長年重ねられてきましたが、「疲れ」と「だるさ」については実際の詳細なメカニズムはまだ解明されていない状態です。しかし痛みを伴うものや、気持ちが落ち込むなどのうつ症状が起きる原因は脳血流にあるということが少しずつわかり始めました。中でも特定の領域の脳血流が減ることでそれぞれ異なる症状が出る仕組みも徐々に明らかにされつつあります。 「疲れ」や「だるさ」の入り口が神経なのかホルモンなのか、はたまた免疫系なのか、人によって異なります。西洋医学が苦手としやすい、この複雑な病態には東洋医学の漢方が幅広い対応力を発揮しやすいことも患者さんにはぜひお伝えしたいです。

どうやって診断するの?

「疲れ」や「だるさ」がどういうスピードで現れたのか 急激に起きた症状なのか慢性の経過なのか、その状況を正しく振り返ることがまず肝心です。 急激に起きた疲れやだるさについては、身体由来と考えることが定石です。 逆に慢性的なだるさは、身体の特定箇所に痛みや腫れが認められる場合以外、精神的なものと捉える原則があります。

一方で限局した他の症状が強ければ、例えばガンや悪性疾患の影響による疲労感が発生している可能性があります。 急激に起きただるさは比較的診断しやすいものですが、慢性的に起きている疲れやだるさは最初から精神的なものと決めてかかると悪性症状を見逃すことがあるので当院では細心の注意を払いながら診療を行うよう心がけています。 

「だるさ」ひとつをとってもアプローチの仕方はさまざまだからこそ患者さんが訴えた“一番の目的”を意識し続ける治療を心がけて―

上記に述べてきた通り、「疲労感」と「だるさ」は詳細な分析が難しい症状です。患者さんが受診に訪れた際の本来の目的が何であるのかを意識しながら状況把握に努めることで、意外と心の深い悩みが隠されていることが多くあります。

・血液検査
・尿検査
・胸部レントゲン
・心電図
・甲状腺機能検査 

などの検査を通じて数値として正しい情報を知ることは非常に重要です。とはいえ、 逆に検査で異常を認めないのであれば、精神的なものも疑わざるをえません。さまざまなアプローチの可能性があるからこそ、患者さんの当初の目的を忘れずに治療を進められるようスタッフ一同努めています。

どういう治療をするの?

まずは正しい診断が重要

診断がつかなければ治療も始められません。 身体の病気が隠れている場合は、当然ながら貧血治療、甲状腺機能を正常化させる薬などを適宜使用します。

一方で、生活が不規則な方、心に問題を抱えている方、複雑な要素が絡みあってしまっている方などの場合は、直接的な治療法に辿り着くまで時間を要するものです。うつ病や神経症など精神的な病が強く疑われる場合は、精神科や心療内科の専門医の指導を受けることをおすすめします。そこから先の治療はその先生の判断におまかせすることにはなりますが、カウンセリング中心の治療を行うのか、何か西洋薬を始めるかなど治療法は一人ひとり異なることでしょう。

生活が不規則な方はまずは朝、太陽の光を浴びて健康的に起きることから生活全般の本格的な立て直しに取り組むことが大切です。規則正しい生活、定期的な運動やウォーキング、太陽の光を浴びることなどの気晴らし、積極的に外に出る行動は健康にとってとても重要な意味を持ちます。東洋医学では、エネルギーの源である「気」が滞っている状態を気滞といいますが、「気」晴らしが気滞に有効な場合があるのです。

またアルコール依存症的要素がある方はお酒の量を減らすなど少しずつ改善できる目標を見つけ出すことが回復への近道です。

補う治療が効果を押し上げる漢方の底力

漢方医学では「気」「血」「水」という三つの物差しに分けて考えます。 歴史的に日本の東洋医学は、中国よりも臨床において「気」「血」「水」を意識して使い分けています。中でも疲労・だるさにつながるものは、「気」の部分が密接に関わっていていますから、それを踏まえた処方を行います。 代表的なものとしては補中益気湯(ホチュウエッキトウ)があります。補中益気湯という薬の名前の由来は「真ん中を補う」「気を増やす」という身体の真ん中(特に胃腸系)の足りない部分を補い気力を注入するという意味を持ちます。歴史的にもそういう哲学に基づき作られている経緯があり、また不思議なことにそれは現代の患者さんにも広く受け入れられ効果を発揮します。西洋医学的に治療法が乏しい慢性疲労症候群などでも実際使用され、効果を実感される方は多いです。

昔、「気」という漢字は中に「米」という文字が入る「氣」と表記されました。食欲不振や消化不良、嘔吐など人の中心部分が上手く機能していない、つまり消化機能を立て直すことが肝心だという意味を持っています。またお米を食べることが気力の源になるという意味が「氣」という漢字には込められています。そういった哲学が処方の中には存分に込められていて、例えば食欲はあるけれどもうまく吸収ができない状態が続くようなときに処方される漢方薬に薬用人参や大棗(ナツメ)が入っていることも多く、ユニット単位として幅広い効果を発揮できるよう形成されています。中に入る生薬どれか一つを抜くと計算された複合的な効果は期待できません。漢方を詳しく知らないドクターでも補中益気湯は有名な処方であり、疲労の患者さんに用いた経験があるのではないでしょうか。

また東洋医学では疲労感やだるさを感じる状態を「気虚」と言います。 そもそも人間の身体を動かしているエネルギーは「気」であり、気虚はまさに慢性疲労症候群の症状とおよそ一致しています。

・風邪を引きやすい
・一回風邪を引くと治りづらい
・元気がない
・やる気が出ない
・気持ちが憂鬱である
・消化がうまくできない
・食欲不振  

などは気虚の代表的症状です。 東洋医学的な考えでは当たり前のようにあるものも、西洋医学の視点に立つと途端に正しく見えなくなることがあります。人のエネルギーは目に見えない数値化しづらいものです。そういった明確に指し示すことができないものに対しては、西洋医学では急に判断が鈍ります。極端なことを言えば、「症状が見えないものに対しては治療法がない」という判断に至る傾向があります。

他にも皮膚や髪の毛のトラブルを抱えている方によく処方するものとして、補中益気湯に似た十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)があります。気虚に加えて血虚(爪、髪、皮膚など目に見える新陳代謝が落ちている状態)の方に用いる薬です。

他にもエイジング症状に効果がある代表的な薬として八味地黄丸(ハチミジオウガン)があります。気虚だけでなく、東洋医学では末梢血管の循環不全のことを瘀血(オケツ)といいます。人間の身体の血管の95%以上は末梢血管であり、動脈血管など太い血管は多くはありません。末梢血管が老いてくると血流が悪くなり、動脈硬化などを招きやすく身体はしなやかさを失います。動脈硬化がない状態でも運動不足であれば、血管そのものが怠けてそこから血流が上手く回らなくなります。そういった末梢血管という観点においても疲れやだるさが深く関係していていることはさまざまな研究で明らかにされてきました。つまり身体の隅々まで酸素や栄養が行き届かないことは、冷えや疲れの原因になるものです。それは八味地黄丸が瘀血の改善に一役買っていることに他なりません。疲れやだるさといった分野においても漢方医学が持つ可能性はいまや想像以上に広がりを見せています。

当院の診療方針

当院では目に見えないエネルギーである「氣」を捉え、真摯に扱う東洋医学を扱っています。 患者さんが訴えている「だるさ」「疲労感」といった症状を真っ直ぐに受け止めます。 患者さんが「だるい」とおっしゃったその原点から診療を始めるわけですが、東洋医学的な分析の中でそれぞれの患者さんの置かれている状況や背景によって処方する薬はさまざまに変化し、最適な治療を模索します。保険適応の漢方エキス剤を使用する場合もあれば、状況によって煎じ薬(自由診療)をおすすめさせていただく場合もあります。加齢に伴うものと判断すれば、八味地黄丸(ハチミヂオウガン)を用いるなど、だるさや疲労に効果があるとされる漢方薬は数多く取り揃えておりますので、お気軽にご相談していただければと思います。服用期間としても3か月程度で劇的に良くなる患者さんもいれば、慢性的であれば年単位で服用が必要な方など患者さんによってさまざまです。

病気とまではいかないまでも健康ではない“黄色信号”の状態を「未病」と言います。現代では「なんとなくだるい」という患者さんがとても増えていて、東洋医学的な観点に立てばその方たちを広く救える可能性があります。ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

とはいえ、必ずしも全員が漢方や鍼灸を使わなければならないことはなく、食事内容や生活習慣を変えるだけで良くなることもあります。あくまでご本人とより良い治療法をともに模索します。

前述の通り、疲れやだるさは患者さんの主観的な症状である事実に加え、治療効果も患者さんの主観にゆだねる部分がとても大きいという特徴があります。

人間は結構単純な生き物です。食欲、睡眠、大便の3つが問題ない場合、大きなトラブルがないことが多いのです。不安感がベースにあるだるさは、検査結果が正常とお伝えするだけでも安堵されて回復される方もいます。気分転換に旅行に行ったらあっという間に改善された方、単純な脳疲労だった方なども診療の現場には多くいらっしゃいます。

真面目過ぎる方がうつ病になりやすい傾向があるように、だるさを「自分が怠けているからだ」と強く思い込む方はどちらかというと深刻な疲労感に陥ることがあります。また、ときに精神病や婦人科などの専門医に指導を受けたほうがより良い改善策が見つかる可能性がある患者さんにも出会います。

「疲れ」や「だるさ」は主観的であるがゆえにかなり個人差が出る症状です。 そんな中で何をおおよその判断基準にすべきかと言えば、

・日常生活に支障がないか 
・強いだるさで眠り続けることはないか
・日中の生活がままならない眠気があるか
・逆に夜眠れないくらいのだるさがあるか
・食欲が大きく落ちてないか

といったところが判断の軸となります。 ご自身でも診療を受けるべきかどうかの参考にしていただければ幸いです。

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