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不眠 

今あらためて見直したい「不眠」

どんな症状なの?

自身で睡眠の不足感を自覚し、生活に支障をきたしている状態です。ポイントは自覚している症状があるかどうかにあります。実際にどのような支障が起きるかというと

・身体的な障害
・精神的な障害
・社会的な障害

の3種が挙げられます。

眠れる時間が長い場合でも、本人が睡眠不足と感じていれば「不眠」と判断します。主観的な要素が強い症状ですから、客観性を重視する西洋医学では不眠治療は苦手となる場合もあります。

どうして起きるの?

海外では「5つのP」と言われていますが

●生理学的(physiological)
 環境の要素(騒音・温度変化・過労など環境による変化など)

●身体的(physical)
 体の不調(気管支喘息・前立腺肥大症・慢性胸痛・胃食道逆流症など)

●心理学的(psychological)
 失恋・試験勉強などの心理的ストレスなど

●薬理学的(pharmacological)
 降圧剤・気管支拡張剤・ステロイドなどの副作用・たばこ・カフェインなど

●精神的(psychiatric)
 うつ病・統合失調症・アルコール依存症等

が主な要因として挙げられています。

その他、正常でありながらも精神的な要素として「強い思い込みによる不眠」もあります。実際は正常な睡眠でありながらも、本人の“眠らなければ”という強い意識により入眠努力をすればするほど身体の緊張状態が高まってしまう悪循環があります。その結果、実際は意外と眠れているのに満足感が得られない状態になります。

どんな種類が考えられるの?

大きく分けて4つに分類できます。

●入眠困難型
 寝つきに1時間以上かかり、なかなか眠れない。

●中途覚醒型
 眠れるが朝起きる時間までに何度も目が覚める。

●早朝覚醒型
 朝早く目覚めて、再び眠ることができない。根底にはうつ病の要素が隠れているケースも多い。

●熟眠障害
 高齢者に多くみられる傾向がある。睡眠時間は比較的取っているものの眠りが浅く熟睡感が得られない。

どんな問題が起きるの?

●昼に起きるトラブル
慢性的な不眠があることにより、昼と夜のメリハリがつかなくなり自律神経の乱れを生じます。昼間に活躍すべき交感神経がうまく機能しないことにより、昼間の倦怠感、集中力低下、焦燥感といった認知機能の低下が起きます。

●負の連鎖が起きる
不眠症の患者さんの3割程度は身体的な要素が影響し、残り7割程度には精神的な要素が関連していると言われるほど心のバランスの乱れが大きく影響しているものです。特に“眠らなければ“と強く思い込んでしまう方ほど、逆に体の緊張を高めてしまうという事例は実際の診療現場によくあるものです。
入眠困難型の方は、ベッドや布団に入ると精神的な緊張がより強くなり、寝入ろうとすればするほど目が冴えてしまうといった負の連鎖を引き起こします。不眠の背景には精神的な要素が入り込みやすいという特徴があります。

●不眠と生活習慣病との意外な関係性
長期的な不眠が引き起こす問題として、身体に及ぼす影響は大きなものです。

日本で行われ、世界的な話題にもなった興味深い研究をひとつご紹介します。
高齢者528名を対象に「暗くした部屋に豆電球をつけて寝るグループ」と「電気を何も灯さず真っ暗な部屋で寝るグループ」の二つに分けて比較調査した結果、豆電球をつけて寝るグループのほうが肥満症になる確率が2倍弱も増え、高コレステロール血症になる確率も2倍弱増えることがわかりました。(OBAYASHI 2013年 論文)

なぜそうなったかというと、本来朝に脳内で分泌されるべき物質のひとつにメラトニンという物質があるのですが、豆電球という微量の明るさにも昼間の明るさとして脳が認識してしまうことで体内時計に異常をきたしたのだろうと考えられています。少なくとも被験者となった高齢の方に対して代謝変化が起きたことは事実であり、生活習慣と不眠との関係性はエイジング(加齢)への影響も含めてありそうだという結果をこの研究は導き出しています。

また、例えばうつ病由来の不眠に悩まされる方も、解決の糸口としては精神的なアプローチだけでなく慢性的な身体への影響も一度考えてみる価値があると言えるのではないでしょうか。

このように睡眠は様々な問題が複雑に絡み合っているという現実があります。

どうやって診断するの?

不眠(睡眠障害)の明確な診断基準はいまだに確立されていない、というのが現状です。患者さんご本人の訴えが一番の手掛かりにならざるを得ない状態です。診断の参考となる「終夜睡眠ポリグラフ」という検査があります。睡眠の質を経時的にみるものです。しかし、この検査は診断に必須ではなく、また、睡眠を専門とする医療機関に行かなければなりません。

どういう治療法があるの?

大きく分けて二つあります。

●西洋薬と漢方薬の両者の視点を取り入れた薬物療法

不眠の種類やパターンによって処方される薬は多岐に分かれます。緊急性や確実性を要する不眠の場合は、西洋薬が向いています。西洋薬の代表例としてはベンゾジアゼピン系の薬が広く用いられており、昨今の新薬開発も目を見張るものがあります。睡眠に関わるオレキシンという物質をコントロールする新薬も当院では使用しています。一方、漢方薬は緩やかな根幹的治療が期待されます。

日進月歩の新薬開発の中で、西洋薬が抱える問題点

◆日中のさらなる認知機能低下の可能性
認知機能が落ちている患者さんが服用すると、薬効が強すぎたり合わなかったりする場合があります。また、薬の効果が翌日に持ち越されて、仕事効率がさらに下がる場合があります。

◆長期間の服用により薬を増量しないと効果が期待できない弊害も
長期間服用すると身体が薬物に慣れてしまうケースがあります。その場合、薬をさらに増量しないと効果が得られにくくなるという問題が生じます。また近年、睡眠薬の長期服用が将来的にアルツハイマー病などの痴呆発症率の上昇につながるというデータが近年ヨーロッパで発表され始め、問題視されつつあります。

漢方薬のお話をする前にひとつ、ある本のご紹介をさせてください。スタンフォード大学の医学部精神科教授が2017年に出版し、話題になった本『スタンフォード式 最高の睡眠』(著者:西野精治)にこんな言葉が載っています。

東洋には漢方薬があるし、ヨーロッパのカノコソウやカモミールに代表されるようなハーブは何百年も用いられてきた。眠りに効くのか鎮静に効くのか、それがどれくらい強く効くのか検証されていない部分もある。しかし全く効果がないものは淘汰されていくから、ずっと飲まれているという事実はある程度の効果があるひとつの証拠だと私は思う。効果があっても副作用が強いサプリメントも淘汰される。

 現在まで淘汰されずに残ってきた不眠の生薬や漢方薬は、私も一定の効果があると確信しています。漢方薬の処方は他の随伴症状や舌、脈、腹など診察時の所見で決定するため、同じ不眠症とはいえ個人によって処方はさまざまに変わります。針灸を含めた東洋医学は心身全体を改善する結果、より自然な眠りが誘導されるように手助けします。

不眠に用いられる漢方薬の代表的なものとして酸棗仁湯(サンソウニントウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)、温胆湯(ウンタントウ)、加味逍遥散(カミショウヨウサン)などがあります。これらの処方には酸棗仁、黄連、石膏、遠志(オンジ)、山梔子(サンシシ)など睡眠を調節する生薬が多く用いられています。これらの生薬は経験の乏しい先生が扱うには難しいものと考えます。特に体力が満ち溢れている人や、逆に体力が乏しい人に用いる生薬の違いなど、不眠の漢方治療というのは医師側にとってもかなりの経験値を必要とするものです。

漢方薬は不眠プラスα(他の随伴症状)をユニットとして症状を捉えるため、不眠以外の症状に対する効果も期待できます。漢方薬はいくつかの症状の組み合わせで選ばれます。漢方薬は途中で止めても効果が持続するケースもあり、リバウンドが起きにくいというメリットもあります。一方で確実性が乏しい、効き始めるまで2週間程度時間が必要といった速効性が弱いことも事実です。ある程度の効果の手応えを感じるまでは2~3か月の時間を要します。

●薬物以外の治療法

●睡眠衛生指導
 ・入眠の1~2時間前までには入浴をする
 ・休日であっても起床時間を一定にする
 ・寝る前にタバコは吸わない
 ・寝る4時間以内はカフェインを摂取しない
 ・テレビやパソコン、スマホの操作は眠る1時間前には控える

●刺激制御療法
 以下は、アメリカの医師たちが不眠症の患者さんに指導している内容です。
 ・寝室に行くのは睡眠と性行為のみに制限
 ・眠くなったときだけ寝室に行く
 ・寝具に入って20分経っても眠れないときは別の部屋に行く
 ・途中で起きた場合、10分経って再度眠れない場合は別の部屋に行く
 ・寝室に本や携帯電話を持ち込まないなど意識的にオンとオフを分ける

●針灸
 経験値ではあるものの、実際に効果を感じる人は多く、比較的速効性があります。

当院の診療・治療の方針

東洋医学で対処できる範疇であれば舌・脈などの診察後に、不眠を改善する漢方薬を用いて治療を行います。患者さんの希望をお聞きしながら速効性のある針灸をご紹介することもあります。漢方薬を用いる際はさまざまなコツがありますが、胃腸症状の有無、精神症状の有無、冷えやほてり感など体温調整障害の有無、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病の有無などの問診内容が参考になる場合も非常に多く、患者さんの生の声を大切に考えています。

うつ傾向が強く、緊急性や確実性を求める必要がある場合は当院で西洋薬を処方する場合もあります。ただし、2種類以上の西洋薬を長期間服用しても眠れない方やうつ病など精神疾患によって自殺願望がある方など、症状の程度が重い場合は各専門医をご紹介いたします。

その他

睡眠薬の代表はベンゾジアゼピン系薬剤ですが、国民1人当たりの服薬量を比較したデータがあります(国際麻薬統制委員会 2010年報告)。日本は、なんと2位です。日本で頻用される有名な薬をデータに含めると1位の可能性もあると言われています。とにもかくにも日本は睡眠薬の使用量が突出して多く「日本人の睡眠薬乱用は減らすべき」と海外の有識者から以前から指摘されてきました。

実際そうなのでしょう。今年(平成30年)4月、厚生労働省は睡眠薬の適切な使用にむけて各医療機関へ指示を出しました。内容は以下のものとなります。

「不安の症状または不眠の症状に対し、ベンゾジアゼピン系の薬剤を12ヶ月以上、連続して同一の用法・用量で処方されている場合」は処方料および処方箋料を減点する」

専門的な内容ですので詳細は省略しますが、安易な睡眠薬の使用を減らすべきと判断された、保険診療の改定内容です。今までの睡眠薬や西洋薬の使用法を今、修正すべき方向に徐々に舵が切られ始めています

また前述した通り、強い思い込みが不眠を悪化させるという問題についてですが「7時間は睡眠時間を確保しなければならない」といった通説への思い込みが患者さんの不眠を悪化させている様子をよく目の当たりにします。

有名な話ですが、ナポレオンは3時間程度の睡眠で十分な日常生活が送れるショートスリーパーだったと言われています。個人によって適切な睡眠時間は全く異なります。診断学の権威であるローレンス・ケアニー医師も年齢に応じて睡眠時間が減ることをこう言っています。『Many People who believe,they have insomnia do not, as the need for sleep wanes with age.』(訳:眠れないと訴える患者さんの多くは実際のところ眠れている。なぜなら睡眠の必要量は年を取るごとに減少するからである。)

人間は成長を必要とする時期には成長ホルモンの分泌などの影響もあり、睡眠時間を長く取らなければならないことも事実です。ただ、大人やストレスを日常的にあまり受けないような人は、睡眠自体はそれほど長く取る必要がなくなってくることもまた事実です。子どもと大人、若い世代と高齢者といった比較ではその背景は全く異なります。

とはいえ、不眠の原因をご自身で正しく判断できないこともあるでしょう。その場合、不眠に対してご自身がどう感じているかが受診への出発となります。眠れないことを過剰に心配し、西洋薬を多く服用して副作用に悩まされるくらいなら、全身状態を改善しつつ自然な睡眠に誘導しやすい東洋医学の歴史的な経験値を試してみるという選択肢も考慮されてはいかがでしょうか?当院では自由診療の本格的な煎じ生薬治療も取り扱っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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